シンポジウムⅡ シンポジスト講演概要のご案内

持続可能な健康社会の構築に向けて、健康を「可視化」し、その知見を臨床や社会へと展開していくことは、今後ますます重要となります。シンポジウムⅡ「データサイエンスがつなぐ健康の可視化 ― 生体データの臨床展開 ―」では、事象関連電位を用いた認知機能の評価、自律神経活動によるシフトワーカーの健康評価、さらに生体データを活用した機械学習研究における方法論的・制度的課題を取り上げます。基礎研究から臨床応用、そして社会実装へと至るプロセスを多角的に整理し、データに基づく健康支援の可能性と課題について考える機会となることを願っております。
各シンポジストによるご講演の概要は、以下の通りです。

事象関連電位を用いた予測的姿勢制御に関連する認知機能の評価

矢口 智恵(日本医療大学 保健医療学部リハビリテーション学科理学療法学専攻)

立位で上肢を随意的に急速に運動する場合に、下肢および体幹の姿勢筋が上肢運動の主動作筋に先行して活動を開始する。このような予測的姿勢制御に、認知機能が関連することが報告されている。我々は姿勢制御課題時の認知機能の様相を直接的に評価するために、脳波による測定法の1つである事象関連電位を用いた検討を行ってきている。本シンポジウムでは、その評価の方法や得られた知見について紹介する。

交替制勤務の労働安全衛生に資する自律神経活動の研究

田中 美穂(東邦大学 医学部生物学研究室)

私は2009年に起こった看護師の過労死を契機として、交代制勤務に従事する看護師の研究を開始し、現在も継続して取り組んでいる。主な手法は、超小型軽量のデジタル心電計を用いた心拍変動の計測である。夜間勤務の前・中・後の延べ20~170時間の全心拍を連続測定し、生理学的指標として自律神経活動を検討することで、疲労や回復の評価を試みている。今回は、実測データを用いながら、シフトワーカーの健康の可視化について考える。

生体データの臨床展開における方法論的落とし穴と制度的課題

兵頭 勇己(高知大学 医学部附属医学情報センター)

生体データを活用した機械学習研究は急速に拡大する一方、データリーケージや過学習といった方法論的問題により臨床実装に至るモデルはごくわずかにとどまる。本講演では、データの取り扱いや統計的性能と臨床有用性の乖離、モデル解釈性ツールの限界など、基礎研究から臨床展開への構造的障壁を具体的事例とともに整理する。さらに次世代医療基盤法改正やSaMD規制の最新動向を踏まえ、研究者が備えるべきデータサイエンスの規律とリテラシーを提示する。